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心を揺さぶる語り方

 プレゼンテーション力の向上について何か役に立つかなと古本屋で一冊の本を手にしました。一龍斎貞水著の『心を揺さぶる語り方 人間国宝に話術を学ぶ』(生活人新書)という本です。ご存じの通り一龍斎貞水さんは講談師で初の人間国宝に指定された方です。高校生の皆さんには「講談」といってもピンと来ないと思いますが、寄席等の高座で、釈台(しゃくだい)と呼ばれる小さな机の前に座り、張り扇でそれを叩いて調子を取りつつ、軍記物や政談など主に歴史にちなんだ読み物を、観衆に対して読み上げる伝統芸能の一つです。著者の一龍斎貞水さんは「四谷怪談」をはじめとする怪談もので有名な講談師です。
 さて、この本にはもちろん話術に関する技術的なことも記されていますが、貞水さんの修行時代や師匠として後進を指導する中で学ばれた生きる姿勢や考え方がたくさん書かれており、とても感動もし参考にもなりました。例えば「思いやりとしての話術」といして「場の空気を読めるか読めないかは、一つには思いやりの差です。普段から相手の身になって物事を考えているかどうか。」また、「人間の心には、いろいろな種類があります。人の痛みを知る心、悪を憎む心、義理人情を尊ぶ心、異性に恋する心、家族を大事に思う心・・・。そういう心に向けて、我々は語りかけています」
 貞水さんによれば心を動かす話術というのは、まず第一に一生懸命考え、準備をし、心を込めて語った結果であるべきだとし、根本は人を思いやる心や立場を弁える、そして何事にも真剣に取り組む人間性だということです。
 私も心を刺すように揺さぶる語りではなく、心に染み入るような心を揺さぶる語り方ができる人でありたいと思います。